6191:エボラブルアジアで試される株式市場の民度

航空券予約サイト「トリップスター」などを運営するエボラブルアジアが決算を発表した。売上高は前年同期比40.8%増の56億3400万円、営業利益は34.1%増の8億2900万円と大変良好な内容である。そして今期予想については、売上高が25.1%増の70億5000万円、営業利益にいたっては80.9%増の15億円という驚異的な増益見通しを公表した。

これだけ見れば、文句のつけようがない素晴らしい成長企業に映るだろう。しかし、今回の決算にはいくつかの"まやかし"が仕掛けられている。以前からこの企業のIR姿勢には疑問を持っていたが、ついにそれが決定的になったと見て記事化することにした。

まず最初に以下の2つの画像を見ていただこう。上が今回の着地の数字、下が1年前の決算短信で発表した業績予想である。

 

f:id:mr_greedy:20171115002122p:plain

f:id:mr_greedy:20171115002134p:plain

おわかりいただけるだろうか。大幅な増収増益であることは事実であるものの、期初に発表した業績予想に対しては売上高で8.4%、営業利益では17.2%の未達となっているのだ。

期初に発表したEPSは35.66円、終値が2446円だから、今日の今日までエボラブルアジアはPER68.5倍という高いバリュエーションで取引されていたことになる。一般的にこれは業績予想はクリアして当たり前で、どれだけ上ブレできるかが期待されるような会社に付けられるPERであり、どれほど増益率が高かろうが未達という結果では許されない水準だというのは異論のないことだと思われる。

ところが、この会社はその点には全く触れないどころか、逆に下図のような説明をして何も問題がなかったかのような顔をしている。

f:id:mr_greedy:20171115002154p:plain

もしIFRSなら実質的に達成していた、などという言い訳を聞きたい投資家など誰もいない。聞きたいのはなぜ未達に終わったのか、それに対して今後どのような施策を打っていくのかということだけである。これまで高い成長性を売りにして来た会社が、都合の悪いことが起きると一切ケアをしないというのは非常に危険なサインであることは、経験豊かな投資家であればよくご存知のことだろう。

だが、この会社の行った"まやかし"はこれだけに留まらない。実はこの営業利益8億2900万円には、投資事業から得られた営業利益1億6700万円が含まれている。もしこの会社の本業がベンチャーキャピタルコンサルティングなどに類するものであったのなら全く問題はない。だが、エボラブルアジアはどこからどう見ても航空券予約サイトの運営を主力とする会社で、投資家もその成長性に期待をして高い株価を付けている。よって、今回の有価証券売却益は一時的な利益と見るのが妥当である。

もしそれがなかった場合にどうなっていたのかをわかりやすくするために、エボラブルアジアが上場してから2年間のセグメント別業績推移を四半期ごとにまとめた。

f:id:mr_greedy:20171115002222p:plain

17年に入ってから四半期で3億円以上出ていた本業の利益が、4Qで突如半減していることがわかる。ちなみに、この会社の4Qは7-9月であり、旅行業界では最も売上の立つ四半期となる。にも関わらず、売上高で見ても前年同期比で1.1%増にとどまり、3Qの43.5%増から急ブレーキがかかる結果となった。

f:id:mr_greedy:20171115002246p:plain

試しに関連企業の同四半期の実績を見てみよう。日本航空の7-9月の売上高は6.4%増で、天候不順などがあっても順調に伸びている。ANAは11.0%増となり、こちらは2桁の伸びを達成した。そして直接の競合となる航空券予約サイト「スカイチケット」を運営するアドベンチャーは、この時期に売上高を86.5%も伸ばしている。こうした予約サイトの価格を横断検索することができる旅行比較サイト「トラベルコ」を運営するオープンドアも、同期間の売上高は53.5%増であった。

要するにエボラブルアジアの圧倒的な一人負けなのだ。基本的にユーザーの認知度向上に合わせて右肩上がりで伸びていくネットサービスの会社にあって、四半期でこれほど急激に業績モメンタムが悪化するのはただごとではない。これは業績をミスした程度のことではなく、屋台骨にヒビが入ったことを疑わざるをえない大事故と言える。

最近同じような状況になった会社と言えば、料理動画アプリのクラシルに侵食されて四半期売上高が25.3%減、営業利益で78.5%減の衝撃的な決算を発表したクックパッドが思い起こされる。それなのに、会社の出した決算説明資料を見ると未達に関することは一切どこにも書かれておらず、ひたすら耳障りの良い話だけを書き連ねているのである。

これが投資家を重視したIRの姿勢と言えるのだろうか?アドベンチャーのとてつもない増収率を見れば、エボラブルアジアがシェアを奪われていることは想像に難くない。このまま無策でいれば次の四半期には減収に追い込まれてもおかしくないことは、まともな投資家が見れば一目瞭然の状況である。今会社が行うべきは、空虚な未来予想図を描くことではなく、足元の事業環境の急変に対してきちんと向き合うことではないのか。

だが恐らく、こうした声を投げかけたところで、エボラブルアジアの経営陣には決して届くことはないだろう。なぜなら、この会社は私が言っているようなことは百も承知で、敢えてこのようなIR姿勢を貫いているフシがあるからだ。

その疑念は、今年2月16日に出された「当社主要株主の株式売却について」と題された開示資料から浮かび上がってくる。

http://ke.kabupro.jp/tsp/20170216/140120170216401203.pdf

要は、会長と社長が市場で株式を売却した、その数量は発行済株式の9.2%であるということが書かれてある。実際にはブロックトレードで売却しているため市場への直接売却ではないが、引き受けた投資家がすぐに市場で転売したことは前後の値動きから明らかであり、実質的には市場で売却したのと変わりない。

それ自体は大したことではないのだが、問題はこの時の株価状況である。売却の約3ヶ月前、本決算においてエボラブルアジアは売上高53.7%増、営業利益61.9%増の野心的な業績予想を発表した。更に、ここから投資家の期待を煽るような事業提携などのIRを連発したことにより、株価は決算発表前の1500円前後から、株式売却が行われるまでの3ヶ月間で3900円まで急騰しているのである。

その株価過熱の最中に、発行済株式数の9.2%、金額ベースで約50億円もの利益確定が行われた。それから9ヶ月後、株価は1度もこの時の高値を上回ることなく次の決算を迎え、今回解説したように業績は大幅な未達に終わったのである。もちろんこれが意図されたものだと断定することはできない。事業には予想できない急変動が起こることもある。しかし結果的には、達成できない過大な業績予想によって作られた株価で創業者二名が大規模な株式売却を行ったことになった。

そして再びの今回の業績予想である。一過性の利益を除く賞味の営業利益が前年同期比で半減となった直近四半期の不振からすれば、営業利益が80.9%伸びるというこの予想の根拠はどこにもない。足元の状況から客観的に判断すれば、到底実現不可能な荒唐無稽な数字だと言わざるをえないのだが、前年の総括を行うこともなくこの会社はそれを発表してきた。

そうするインセンティブは今回もある。7月に総額101億円の新株予約権クレディ・スイス証券に対して発行しているからだ。この新株予約権は合計3本、行使価額はそれぞれ3500円、4500円、6000円となっているが、2018年1月25日以降は下限2918円に修正することが可能となっている。現在の株価は2446円なので、なんとかしてこの行使価額まで株価を持ち上げたいというインセンティブは確かに存在するのだ。

本業の行き詰まりを察してかどうかは不明だが、エボラブルアジアは決算発表に先立つ2ヶ月間で2件の買収を行っている。このうちの1つはメールマガジン運営のまぐまぐで、取得価格は8億円。オンラインサロンに加えてVALUも盛り上がる中、いかにも旧世代のビジネスという印象が拭えないまぐまぐの売上高は4億7000万円、営業利益は5500万円で、買収価格が安かったようには思えない。

こうした出費も影響してか、前期のフリーキャッシュフローは10億9600万円のマイナスとなり、有利子負債は10億6000万円の増。自己資本比率は47.0%から37.7%に悪化した。財務状況を鑑みれば、是が非でも市場から資金を調達したいところであろう。

ところで、この決算発表を受けてPTSは大幅高になるかと思いきや、+1.10%の小幅高で取引を終えている。出来高も1100株と全く盛り上がっていない。実のところ、今回このようなタイトル付けをしたのにはわけがある。

新興市場に詳しい投資家なら、この程度のことは日本市場では日常茶飯事的に行われていると思うかもしれない。確かに、これがトレイダーズやnuts、あるいは現在進行形で話題を集めているウェッジの発表した資料であれば、私もわざわざ貴重な時間を費やしてまで記事にしようなどとは思わない。そういう銘柄に集まっているのは最初から愚かな投機家ばかりであり、バカにバカと言ったところで何にもならないことはわかりきっている。

その点、エボラブルアジアはIR姿勢が鼻につくものの、途中までの業績の出方はまさしくグロース企業のそれであった。だから、株価水準がオーバーシュートしているのではないかという議論を別にすれば、それを買う投資家がいても不思議ではなかった。

で、あるならば、である。そういう評価を受けていたグロース企業がこれほどのネガティブサプライズを発表すれば、通常なら即座にストップ安に張り付いてもおかしくはない。それを、一過性の利益と実現性のない業績予想という2つの"まやかし"によって覆い隠した時に、市場はこの会社に対してどのような評価を下すのか。

 

これはまさしく市場の方が民度を試されている案件というほかにないのである。